2025-06-21

「粋音」

 

「粋音」

昔々、ある小さな村に、心の底から純粋で、誰からも愛される少年がいました。
その名はタクヤ。彼は花が咲くのを見て喜び、鳥のさえずりに耳を傾け、
人々に笑顔を届けることを生きがいにしていました。
村人たちは彼を「天使のタクヤ」と呼び、彼の存在を誇りに思っていました。

しかし、世の中はそう甘くありません。
ある日、タクヤは都会からやってきた謎の商人、ミツヒコと出会います。
ミツヒコは派手なスーツに身を包み、キラキラ輝く金の時計を腕に巻いていました。
「おい坊主、この世で一番大事なものはなんだと思う?」
と彼はタクヤに尋ねました。

タクヤは少し考えてから答えました。
「みんなが笑顔でいることです!」

ミツヒコは大笑いしました。
「お前、面白いな!でもな、この世で一番大事なのは金だ。
金があれば、笑顔なんていくらでも買えるんだぞ。」

タクヤは首をかしげました。
「お金で笑顔を買う?そんなことできるんですか?」

ミツヒコはニヤリと笑い、「試してみるか?」と言って、
一枚の金貨をタクヤに渡しました。
「これで何か欲しいものを買ってみな。世界が変わるぞ。」

初めて金貨を手にしたタクヤは興奮しました。
そして村のパン屋で一番高級なパンを買い、
友達と分け合いました。すると友達は大喜びし、
「タクヤってやっぱり最高だ!」と口々に褒めました。

「なるほど、これが金の力か…」とタクヤは思いました。
それからというもの、彼はミツヒコからもっと多くの金貨をもらい、
それを使って村中の人々に贈り物をするようになりました。
村人たちはますます彼を褒め称え、
「天使」どころか「神様タクヤ」と呼ぶようになりました。

しかし、その純粋さが徐々に薄れていくことに気づいた人は誰もいませんでした。
タクヤ自身も気づかないまま、「褒められるために」行動するようになり、
次第に「もっと褒められたい」と欲望が膨らんでいきました。

ある日、ミツヒコが再び現れました。
「お前も立派になったな。でもそろそろ本当の取引をしようじゃないか。」

「本当の取引?」とタクヤは目を輝かせました。

ミツヒコは意味深な笑みを浮かべ、
「お前の純粋さと引き換えに、この金貨をもっとやる。どうだ?」

タクヤは少し考えましたが、すぐに頷きました。
「純粋さなんて、もう必要ないかもしれない。
みんなが僕を愛してくれるなら、それでいい!」

その瞬間、タクヤの中にあった最後の純粋さが消え去り、
彼の瞳には金貨の輝きしか映らなくなりました。
そして村人たちは次第に気づき始めます。
「あれ?最近のタクヤ、なんか違う…」

しかしもう遅かったのです。
タクヤは金貨とともに村を去り、都会で「金持ちタクヤ」として名声を手に入れました。
でも心の中にはいつも小さな空虚感が残っていました。

純粋さはお金では買えない。
でも、お金で純粋さを売ることはできる…ということかもしれません

parusui(@parusui11600) • Instagram写真と動画

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